やり手企業も行う囲い込みの手口
この高いスイッチングコストのせいで、消費者っていうのは、本当は自分が一番いいと思っている製品やサービスを選択することができない、要するに市場メカニズムってのは働かないということなんですね。
このロックイン効果を考えるときに、特に重要なのはこういうからくりがあるということです。
最初は、最初から強くロックインされないんですよね。
最初は強くロックインされていないんですけど、時間の計画とともにだんだんだんだんロックインが強くなってきて、やがって完全にロックされて、他の方向にいけなくなる。
この効果を、やり手の企業っていうのはこの効果を使うんですね、この戦略を。
つまり企業は、消費者を自社製品とか自社サービスにロックインするためにどうするかというと、最初は低価格、場合によって無償で製品やサービスを提供しますね、ディアゴスティーニなんかそうなんじゃないですか、初回二百何十円っていうあれですよ。
最初買うと、その後追加的にサービスを追加していって、長く使わせているうちにやがてその製品やサービスなしでは生きていけないという状態になると、こうやってロックインというのはやるわけですね。
西洋の例え話としてよく聞く話で、ラクダの鼻という話があるんですね。
ある旅人がラクダを連れて砂漠を旅していた、夜になってテントを張って寝ることにしたと、でもまあ夜の砂漠っていうのは寒いわけです、ラクダは旅人に、鼻先だけでいいからちょっとテントに入れさせてと頼むんですね、旅人は、鼻先だけならいいかなといって、こう、テントを開けて鼻先だけ入れてやると。
そうするとラクダは夜通し、だんだんだんだんこう、テントの中に頭ねじ込んでいって首ねじ込んでいって、旅人が朝起きてみると、まあご想像の通りで、テントがラクダに乗っ取られていると、これがラクダの鼻って話なんです。
このラクダっていうのはどうやったかというと、徐々にスイッチングコストを引き出して、じわじわとロックインを強めて完全にロックした。
このロックインの戦略を、ラクダが取ったっていうことなんですね
スマートフォンとかまあいろいろな例はあるんですけど、このロックインの効果が見られるというのは経済現象だけでありません。
EUが囲い込み完了した経緯
ブレグジットっていうのはまさにEUから離脱するためにはEU以外のもの、EU非加盟国という選択肢を選ぶためには極めて高いスイッチングコストを支払わなければならないってことを示しているわけです。
要するにEU加盟国は、EUにロックインされて、いくら離脱を望んでも、もうそれが事実上できないということになっています。
仮にEUに加盟してからすぐに離脱していれば、ここまでスイッチングコストは高くなっていなかった。
だからもっと早くやれば、もうちょっと良かったかもしれない。
あるいは、EUの前身の、EECやECとか、もうちょっと縛りが緩い連合体だった時は、離脱によるスイッチングコストは今のEUほど高くなかったわけです。
だけどEECがECになって、それがEUになって、通貨統合してなんとか統合してと、だんだんだんだんロックインが次第に強くなっていく。
EUの統合がこう次第に進化する、統合深化といわれるのは、結局ロックインを強めているんです。
そうするともうEUによって利益を得てしまう勢力っていうのが出てきているし、EUがなくては生きていけないという企業もどんどん増えていく。
そうするとEUから離脱のコストはものすごく高くなってくると。
で、ロックインが完成した。
要するにECというのはラクダの鼻戦略を取っていたということですね。
このロックインっていう現象はEUだけではないんです。
一般にグローバリゼーションの進化と呼ばれているものは、このロックインを強めるっていうことなんですね。
TPPの交渉参加にさえ反対した理由
2011年にTPP交渉の参加の是非が取り沙汰されたとき、私はTPPへの参加どころか交渉の参加もダメと言ってたわけです。
TPPの賛成派というのは、交渉だけでも参加して、ダメだったら抜ければいいじゃないか、とこう言ってたんですけど、私はいやそうじゃなくて、一旦交渉に参加したら抜けられなくなるからやめておきなさいと言ってたわけですね。
そうするとTPP賛成派は、抜けられないなんてことはありえないと、そんな話は嘘っぱちだといって、私をせせら笑ったんですけど、私はこの交渉参加というのはラクダの鼻だってわかってたのです。
いったん交渉に参加すると、今度は、日本は交渉に参加した瞬間に交渉からの離脱した時のコストを恐れて離脱できなくなると、各国から非難されるとかですね。
そうして徐々に妥協を強いられていって、玉ねぎの皮を一枚一枚剥いていくように少しずつ妥協を強いられていくっていうのは見えていたわけです。
私ならそういう意味じゃロックインの話は知ってたので、これはやばいからやめなさいといったわけです。
日本が既に手遅れで後の祭りな理由
でも今となってはもう手遅れですね。
今ではTPPからの離脱なんて全く考えることもできないし、アメリカが離脱したTPPに残ったまま、さらに上乗せでアメリカとのFTA交渉に参加せざるを得ないと、こういう事になっちゃっています。
アメリカとのFTAの交渉では、日本はTPPでもう見せちゃった妥協によっても足元を見られた状態で、交渉をして、妥協を強いられるということになります。
要するにTPPに入ってないで日米FTA交渉をやったときよりも、TPPに入ったままで日米FTA交渉をやる方が、より苦しくなるだろうということですね。
ですから最初からラクダがテントに鼻を突っ込むのを許すべきじゃなかったということです。
要するにTPPの交渉の参加すら拒否すべきだったということですね。
しかし、もはやあとの祭りで取り返しがつきません。
取り返しがつかないという言葉は強調しておきたいと思いますね。
取り返しがつかない、もう大変恐ろしい言葉ですね、非常にゾッとする言葉です、取り返しがつかない。
ちなみにアメリカはトランプ政権のもとでTPP交渉から離脱していますと。