保守派の3つのパラダイム
本日は、保守派の、3つのパラダイムについてお話させて頂きます。
なぜ、パラダイムの理論が必要かというと、人間のものを考えるレベルには、3つのレベルがあると。
哲学的なレベル、その下にパラダイムレベル、その下にポリシーレベル。
具体的なポリシー、政策を、どうするかというレベルですね。
この3つを、我々は常に意識しながら、しゃべったり、考えたりしなければ、きちんとものが考えられないと。
特に難しいのが、一番上の哲学的なレベル、もしくは、ある意味で宗教的なレベルなんですけれども。
これは、価値判断に一番繋がっているレベルなんですね。
最終的に人間というのは、ポリシーがどうだとか、政策がどうだとか、パラダイムがどうだとか言っても、人間には、自分が一番大切だと思っている価値観というのがあるんですね。
その価値観が、明確でないと、パラダイムレベルの議論もグラグラになっちゃうし、その下のポリシーレベルの議論も、その場しのぎのものになってしまうと。
僕が観察するところ、世界中で、実は、価値判断が出来なくなっているんですね、今は。
19世紀か20世紀が、価値判断が混乱して来た200年間で、実存主義とか、言語分析主義とか、ポストモダンとか、ああいうのが流行ったのは、要するに、価値判断が乱れて来たからなわけですね。
ある意味で、共産革命が起きたり、逆に、ファシズムとかナチズムとか、そういうのが起きたのも、価値判断が乱れて来たからなわけです。
混乱して来たわけですね。
このレベルで一番大切なのは、ちょっと青臭い議論なんですけれども、人間がそもそも生きる意味は何かと。
英語で言うと、meaning of lifeというね。
あなたが生きていて、いったいどういう意味があるんだと。
これはもう、哲学の議論なわけですね。
もう一つは、一体、生きがいは何かと。
なんの為に生きているんだと。
英語で言うと、mission of life。
あなたの人生のミッション、任務、使命感は何ですかと。
そういう事を本来議論するのが、哲学とか宗教なわけですけれども。
人類というのを見ていますと、18世紀くらいまでは、だいたいそれが決まっていたんですね。
安定していたわけですけれども、
19世紀になって、非常に混乱してきて。
そういう混乱して来た所で、外交政策とか、国内の政治政策を議論するもんだから、哲学的なレベルをすっ飛ばして、経済学を使えばこうなるだとか、政治学を使えばこうなるだとか、という議論をするもんだから、なかなか議論が深まらないと。
しかも、安定しないと。
だから僕は、この3つのレベルをきちんと分けて考える必要があると思うんです。
そういう事を最初に言い出したのが、実は2400年前のソクラテスと、プラトンとアリストテレスで。
この3人は凄く賢くて。
この3人の対談が残っているわけなんですね。
プラトンとアリストテレスが出て来て。
彼らは、この3つのレベルを、凄く明瞭に考え抜いて、やったわけです。
だから、プラトンが哲学の父と。
アリストテレスが自然科学と、社会科学の父というふうに言われているわけですね。
我々は、ちょっと変な話ですけれども、この2400年前の、この賢い3人の人よりも、かなりレベルが落ちて、混乱した議論をしているというふうに思う事が多いわけです。
それに関連して言いますと、保守主義にも実は2つの保守主義というのがあるんですね。
僕自身も保守主義者なんですけれども。
だからと言って、アメリカとか日本とかヨーロッパの保守主義派と、意見が合うわけではないんですね。
なぜかって言うと、最近200年間の保守主義っていうのは、18世紀の末にフランス革命が起きたわけですね。
フランス革命が起きて、自由と平等と博愛と。
博愛は、具体的に実行されなかったんですけれども。
とにかく、自由と平等を、どんどん、どんどん、社会を再構築すればいいと。
再設計して、やればいいと。
最終的には、もちろん、皆さん、ご存じのように、恐怖政治ですね。
ロベスピエールとか、ジャコバンが出て来て、滅茶苦茶にやって、それで、ナポレオンの独裁になったわけですけれども。
しかしその後、フランス革命の後のヨーロッパの歴史というのは、左翼と保守派が対立すると。
で、実はそれまでの歴史では、紀元前4世紀から、18世紀までは、左と右が対立する、もしくは、リベラルと保守が対立する、という構造じゃなかったわけです。
19世紀になって、初めて、右と左が対立すると。
保守派っていうのは、左翼のすすめて来る革新主義とか、進歩主義とか、平等主義に対しての反動なわけですね。
だから、左翼のやる事に反対する保守と。
要するに、反動としての保守ですから、僕は、彼らの事を反動保守と呼んでいるんですけれども。
これがたぶん、日本でもアメリカでもヨーロッパでも、多数派の保守なんですね。
保守派には、もう1つ、別の保守派というのがありまして。
それは、保守って、英語でいうとconservativeでしょ。
コンサーブっていうのは、大切に保存するとか温存するとかいう意味なわけですね。
それは一体、何をコンサーブするのかと。
あなたは何を温存したいんですかという事が問題になるわけでしょ。
その場合、単に左翼が嫌いだから俺は保守だとか、それから、周りの国が気に食わないから、俺は保守になると。
要するに、他の国に反発するっていうのも、これもリアクションでしょ。
だから、リアクションとしての保守とは別に、あなたは一体何の価値をコンサーブしたんですかと。
要するに、僕は、この価値水準を保存したいから保守なんだ、という保守派があるわけです。
僕は、こういう保守を、時には文化保守と呼んだり、時にあ、古典的な保守、もしくは、正統的な価値判断を温存しようとしているから、正統保守と。
僕自身は、自分の事を、僭越ながら、古典的な保守、もしくは、オーソドックスな正統保守だと考えておりまして。
必ずしも、リアクションとしての保守だとは思っていないわけです。
なんでかって言うと、リアクションとしての保守だと、結局、左翼の悪口と、それから、近隣諸国の悪口と。
悪口を言っているだけで、終わっちゃうんですよ。
例えば日本の保守雑誌ですね、Willとか月間Hanadaとか、というのは、表紙を見るだけで、大抵、表紙自体が悪口でしょ。
中国の悪口、韓国の悪口、北朝鮮の悪口、時にはロシアの悪口、それから左翼の悪口、朝日新聞の悪口、それから、東京新聞の悪口、NHKの悪口、それから立憲民主党の悪口、共産党の悪口とかね。
要するに、左翼の悪口を言うか、近隣諸国の悪口を言うと。
そういう、反動としての保守、リアクションコンサーバティブとしての議論ばかりやっていても、高いレベルに行かないと思うんですね。
もっとはっきり言うと、建設的な議論は、出て来ないわけで。
一体、価値を保存したいんだったら、どういう価値を保存したいんだと。
我々が保存すべき価値判断というのは、どこにあるんだと。
そういう議論をしないと、一体、何を保存したいか、分からないわけでしょ。
日本にしても、アメリカにしても、ヨーロッパにしても、保守派が左翼の悪口と近隣諸国の悪口、もしくは少数民族の悪口と。
悪口を言っているだけでは、保守派の議論というのはいつまで経っても深まらないと。
そうすると、結局、左翼と喧嘩をしているだけで終わっちゃうという事になると思うんですね。
左翼と議論して、時間を浪費している限り、今日の議論に直結しますけど、どのパラダイムを採用して、自分の採用するパラダイムをはっきりして、それから、建設的にどういう外交政策と軍事政策を実行して行くかと。
もしくは、教育政策でもそうなんですけれども、パラダイムをはっきりさせないと、建設的な議論が出来ないと。
だから、先ほど言いました、ものを考えるには3つのレベルがあるという事と、保守主義者にも2つの種類があって、反動としての保守と、そうじゃないという保守。
自分たちが温存したい、保存したい価値規範を追及する保守と。
この違いが出て来ると思います。
では、保守派のパラダイムの、議論に移りますが。
まず、国際政治学のパラダイムの議論をする時に、国際政治の構造ですね。
国際政治はどういう構造になっているのかという事をベースとして、保守派の3つのパラダイムというのは、出て来ますから。
過去3000年間の国際政治の構造っていうのは、一つは世界政府は一度も存在しなかったと。
世界政府が存在しないから、世界立法院、世界裁判所、世界検察、世界警察軍というものも存在しなかったと。
そうすると、裁判所も検察官も警察軍もいないわけですから、力の強い国が、勝手な事をやっても、誰も処罰できないと。
だから、具体的に言うと、アメリカとかロシアとか中国とかイスラエルは、他の国に侵略戦争を仕掛けたり、他民族を無差別虐殺しても、誰も処罰出来ないと。
アメリカと中国とロシアは、国連安保理で拒否権を行使できますから、もちろん処罰されないのは当たり前なんですけれども。
実は、イスラエルも国連安保理で拒否権を行使しているんですね。
それはなぜかって言うと、1967年に、イスラエルがパレスチナを侵略して、1948年にイスラエルのユダヤ人は、パレスチナの土地の78%を取っちゃったわけですね。
で、残りの22%も取ったわけです。
これはもちろん、国際法違反の侵略戦争なわけです。
それにも関わらず、イスラエルは処罰されなかったと。
なんでかっていうと、アメリカが、イスラエルが何をやっても、つまり、隣のレバノンに侵略して、レバノン人を大量に虐殺しても、自分たちが占領している占領地で、パレスチナ人の民間人を無差別虐殺しても、アメリカが全部、拒否権を行使するわけですよ。
実は、1967年から現在までの約55年間、国連安保理で、最も頻繁に拒否権を行使したのは、アメリカなんですね。
確か、65%か70%近くの拒否権というのは、アメリカが行使しているんですね。
ところが、アメリカが、国連安保理で拒否権を行使する、その半分以上が、イスラエルの戦争犯罪。
イスラエルのレバノンにおける戦争犯罪とか、パレスチナにおける戦争犯罪をカバーするために、国際組織とか、欧米諸国が制裁するのを阻止する為に、アメリカは拒否権を行使するわけです。
なんでかっていうと、イスラエル政府と、アメリカ国内のイスラエルロビーが、アメリカの大統領に、拒否権を行使しろと命令すると、アメリカ政府は、命令された通りに、拒否を行使するんですね。
だから、最近55年間くらいは、国連の安保理理事会で、拒否権を最も頻繁に行使して来た国は、実質的にはイスラエルであると。
名目的には、イスラエルは常任理事国ではないんですけれども、その常任理事国ではないイスラエルが、国連安保理で最も頻繁に拒否権を行使して来たという、非常にグロテスクな事態になっているわけですね。
それから、リベラル派の国際政治学の制度学派、インスティチューショナリースクールですね。
インスティチューショナリースクールっていうのは、国際連合とか、国際法とか、紛争処理機関をきちんと整備すれば、世界は平和になるはずだというふうに言うんですけれども。
最近55年間の国連安保理の実態を見るだけでも、要するに、アメリカ、中国、ロシア、イスラエルという4つの国は、何をやっても処罰されないという実態が見えるわけです。
だから、国際政治は、本質的にアナーキーであると。
2つ目の、過去3000年間の国際政治の特徴は、人類に共通の道徳規範、文明観、宗教観、政治イデオロギーというものは一回も存在しなかったと。
共通の価値判断はないと。
それから、3つ目の少なくとも過去500年間の国際政治の構造の特徴は、国際政治の主要な行動単位は、民族国家であって、同盟関係とか国際組織ではないと。
もっと具体的に言うと、いざとなった場合に、自分の国を守るのは自分の国だけと。
要するに他の国に頼って、もしくは国際組織に頼って、国際組織が、もしくは国際条約が自分の国を守ってくれるだろうと思っても、いざとなったら、どこの国も自分の国は自分で守るしかないと。
自分の国を自分で守れない人達は、隣の国にやられてもしょうがないと。
それが、国際政治の実態なわけです。
日本のかたわ、日本は、日米安保条約があるから大丈夫だと、日本は自主防衛しなくても済むというふうに思っておられるかもしれないんですけれども、過去500年間の条約というのは、非常に重要な前提条件があるんですね。
それは何かっていうと、いかなる国際観の条約も、自国にとって大きなダメージとなるような事態の場合は、その条約に署名した国は、その条約を守らなくていいと。
もしくは、その条約は効力を失うという前提があるんですね。
なぜかっていいますと、国際政治っていうのは、本質的に無政府状態ですから、どこの国も自分の国のサバイバルというのが、一番、大切なわけですね。
そうすると、例え、ある条約で、他の国に対して、ある一定の約束を結んでいても、自分の国が、巨大なダメージを受けるような条約の義務を、そのまま果たしたら、自国のサバイバルが危うくなるわけですね。
だから、自分の国の存立に関わるような重大なダメージを受けるような場合には、条約の効力が無くなるわけです。
これは、当たり前の事なんですよ。
だって、どこの国も、自分の国が、そんな巨大なダメージを被るような条約を結んで、それを実行するなんて、そんな馬鹿な事はやらないわけですね。
だから、具体的にどういう事かというと、今、北朝鮮と中国とロシアが、日本とアメリカをターゲットとする核ミサイルを、急速に増加させているでしょ。
毎年、何百基も増加させてて。
今から8年か10年経てば、アメリカと日本をターゲットにする水爆弾頭というのは、この中国と北朝鮮とロシアは、少なくとも千数百発、今以上に増やすわけですね。
そうすると、日本が例えば、北朝鮮か中国かロシアから、日本が言う事を聞かないと、北朝鮮か中国かロシアが、日本に核ミサイルを撃ち込むというふうに日本が脅かされた場合に、アメリカは核の傘を保障する為に、北朝鮮、中国、ロシアと核戦争をするかというと、それはもちろんやらないわけです。
なんでかっていうと、だって、自分の国が、重大なダメージを被るような事態になった場合には、条約っていうのは、効力を失うんですよ。
それが、過去500年間の、条約の前提条件っていうか、当たり前の事なんですよ。
だから、3番目の行動主体は、国民国家であるというのは、どういう事かというと、自分の国は、自分で守るしかないと。
国際組織が、特定の国を守ってくれるわけではないし、ましてや、条約関係が特定の国を守ってくれるわけでもないと。
だから、アメリカだって、もし日本が、中国に核ミサイルを撃ち込まれた場合、それを理由に中国と核戦争をする義務っていうのは、全然無いわけですよ。
アメリカにとって、巨大なダメージになるわけですから。
中国が日本に対して、核による恫喝、もしくは、核攻撃をした場合には、日米安保条約というのは、その時点で効力を失うわけです。
これは、当たり前の事なんですね。
これが、3番目の行動主体というのは、国民国家であって、国際組織ではないと、同盟関係ではないと。
だから、自分の国は自分で守るしかないと。
これが、3番目の国際政治の特徴なわけです。
4番目の特徴が、こういう国際政治は、政府が存在しないし、公正な裁判所というのも存在しないわけですから、過去2500年間、世界諸国は、バランスオブパワー外交を実行して来たと。
これが4つ目の特徴です。
だから、この4つの特徴をしっかり考えておかないと、どういう外交議論をやっても、時間の無駄なんですよ。
だから、アメリカが助けてくれるから、大丈夫だとかね。
それから、日本には憲法9条があるから、他の国は攻撃しないだろうとか。
もし日本が攻撃されたら、国連安保理に、助けて貰えばいいとかね。
そういう議論を、日本の左翼も、日本の保守もするわけでしょ。
日本の保守なんかは、なんか、アメリカが助けてくれるから大丈夫だと。
自主防衛能力を持たなくていいと、日本の保守派は、そういっているんですけれども。
この国際政治の基本的な構造の4つを考えれば、アメリカが、自分の国が巨大なダメージを被るような事態に直面したら、条約は、失効するんですから。
だから、アメリカがわざわざ、核武装した、北朝鮮とか中国とかロシアと戦争をするわけがないという事が分かるわけですね。
それでは、これから、防御的リアリストと、攻撃的リアリスト、それから、覇権による安定理論、ヘジェモニックスタビリティセオリーという3つを説明します。
リアリスト派の、人間に対する考え方というのは、リベラル派と違っていまして、過去250年くらい、ずっと違っているんですよ。
なぜかっていうと、リベラル派の、人間の見方っていうのは、18世紀の中頃から流行り出したいわゆる啓蒙思想ですね。
それから、進歩主義。
それから、理性崇拝主義、人間は理性的な存在であるから大丈夫だと。
それから、ヒューマニズムと。
要するに、人間は、ヒューマニズムと理性と人権と、そういうのを大切にするから、人類はそれを守って行けば、人間が力を合わせてそれに協力していけば、戦争はなくなるから、要するに、制度学派とか、相互依存派とか、民主的平和という考えは、正しいんだと。
保守派のリアリストの考え方は、それほど楽観的ではないわけで。
要するに、保守派っていうのは、過去2400年の人間の行動を見て、人間をどう判断するかという事を、保守派は重視していて。
最近の、フランス革命からの進歩主義とか、人権主義、ヒューマニズムだけに頼っていても、国際紛争は防げないというふうに、保守派は思うわけですね。
だから、保守派の考え方というのは、例えば、16世紀の人文主義とか、17世紀の古典主義、キリスト教神学の人間観が、非常に重要です。
キリスト教というと、皆さんは、平和を大切にして、理想主義的であるだろうというふうにお考えになるかもしれないですけれども。
キリスト教の神学で、一番大切なのは、人間というのは、罪深い存在であると。
そもそも、罪を持って生まれて来た存在であると。
もっと具体的に言うと、人間というのは、偽善と独善と自己欺瞞から絶対に逃げられないと。
この偽善、独善、自己欺瞞のうち、一番怖いのが自己欺瞞なんですね。
自己欺瞞というのは、自分で自分を騙すと。
心理学者によると、人間の認識能力というのは、非常に限られていまして、自分が悪い事をやっても、自分は悪い事をやっていると思わない人の方が多いんですね、実は。
自分が悪い事をやっていて、自分は悪い事をやっているというふうに認識する人間の方が、少数派なわけで。
大抵の人は、そういう認識を持たないわけですね。
心理学者に言わせると、それを彼らは認識における不感知というか、自分にとって都合の悪い事実っていうのは、耳に入って来ないし、頭の中にも入って来ないと。
都合の悪い事実は、全部無視しちゃうと。
これが、人間の基本的なパターンなんですよ。
それはけしからんと言っても、人間はもちろん、僕自身を筆頭として、みんな、自分に都合のいい事ばっかり考えるんですよ。
それが人間なんですね。
都合の悪い事実というのは、みんな無視するというふうに人間は出来ておりまして。
だから、自己欺瞞というのは、人間は生まれた時からそういうふうに条件づけられているわけですね。
もちろん、まともな人間になればなるほど、まともな人っていうのは、自分はこう思っているけど、本当はこうではないかと。
要するに、自分がインチキをやっているんじゃないかとかね。
自分は、自分に都合のいい事ばっかり考えているけど、それは、客観的に考えると、どうも間違いなんじゃないかとか。
まともな人は、そう思うんですけど。
犯罪を犯す人っていうのは、そういう能力が、欠けている人が多いんですね。
だから、常に、何度も何度も、犯罪を繰り返す人っていうのは、自分が悪い事をやっているという認識がないわけです。
で、実は、心理学者に言わせると、そういう人間の方が多いと。
心理学者は、たぶん、7割か8割の人間は、自分が悪い事をやっていても、それを素直に、自分自身で認識するようなタイプではないと。
特に、社会とか、国家全体が、間違った方向に進んでいる時には、7割か8割の人は、自分達が間違っているとは、思わないそうなんですね。
要するに、社会全体、国家全体が悪い事をやっていると、そこに住んでいる人の7割か8割は、我々がやっている事はよくないという事を認識しないらしいんですね。
要するに、自己欺瞞なわけですよ。
そういう人間が、国際政治をやっていますから、他の国が紛争状態になると、どこの国でも7割か8割の人は、それを認識出来ないと。
だから、そもそも無政府状態の国際政治にあって、しかも、人間も政府も過半数は、自分たちが悪い事をやっていても、悪い事をやっていると認知する能力がないという事ですから。
国際政治というのは、非常に困った構造になっているわけです。
要するに、先ほど言いました4つの構造があると同時に、人間自身も、そういうキリスト教の神学が言うように、オリジナル・シン、原罪から逃れられない存在ですから。
だからみんな、自分が自分を騙してでも、あるいは、ある国民が、自分たちを誤魔化していても、それを認識する能力を持たないと。
防御的なリアリストパラダイムというのは、攻撃的なリアリストパラダイムと違って、ある意味では謙虚なわけですね。
だから、先ほど言いましたように、国際政治には4つの条件があって、無政府状態であるし、共通の価値判断とか、共通の文明観、共通の道徳観というのは無いし。
それから、自分の国は自分で守るしかないし。
世界政府もないんだから、バランスオブパワーをやるしかないという非常に危ない条件に囲まれている状態なんですけれども。
少なくとも、防御的なリアリストというのは、なるべく他の国に対して、攻撃的な政策を取らない方がいいと。
ただし、国際政治はアナーキーで、自分の国は自分で守るしかないわけですから、自主防衛しなければいけないのは、当たり前の事なんです。
だけど、防御的なリアリストっていうのは、自主防衛するけれども、他の国に挑戦的な、もしくは挑発的な行動は取らないと。
それから、他の国を追い詰めるような行動も取らないと。
防御的なリアリストにとって、一番大切なのは、自国のサバイバルであり、それから、現在の安全な状態を、そのまま維持する事と。
だから、防御的なリアリストっていうのは、現状維持を重視するんですね。
現状がこれ以上悪くならないように、軍事政策と外交政策を実現しようと。
それに比べて、攻撃的なリアリストは、少なくとも過去500年の国際政治を見た場合に、常に4つか5つの大国、グレートパワーが、最盛時において、有利な、優位な立場を取るように立ち回って。
他の国に対して、優勢な国際政治のポジションを確保しようというパワー競争をやって来たと。
だから、国際政治っていうのは、少なくとも4つか5つの大国に対する限りは、絶え間なき競争であり、自国のパワーを殆ど無制限に上昇するように努力し、競争しなければいけないと。
そうすると、現状を自分の国に有利なように変えて行くのが、国際政治のリアリズムだと。
そうすると、防御的なリアリストにとっては、国際政治のリアリズムっていうのは、なるべく他の国を追い詰めない、それから挑発しないと。
それで、現在の状態を維持しようと。
ところが、攻撃的なリアリズムっていうのは、そうではなくて、自分の立場をどんどん、どんどん、自分の方に有利なように持って行こうと。
だから、アメリカの例を言いますと、アメリカは確か、国防予算を、7600億ドルかを、毎年使っているわけですね。
7600億ドルっていうのは、世界の軍事予算の第二番目から、第十番目の9カ国の軍事費を合わせたよりも大きな軍事費なんです。
なんで、こんな7600億ドルも、こんなに必要なのかというと、軍事政策の専門家によると、アメリカっていうのは、もう通常戦力にしても、核戦力にしても、サイバー戦力にしても、宇宙戦力にしても、圧倒的な優位に立っていますから、7千数百億ドルも使わなくても、四千億ドル~四千五百億ドルくらい使えば、自分の国の安全というのは、もう、十二分に守る事が出来ると。
そうすると、アメリカがもし、防御的なリアリストだったら、毎年の軍事予算っていうのは、せいぜい、四千億ドル~四千五百億ドルくらいで十分なわけで。
7600億ドルも、使う必要なないわけですよ。
そうすると、アメリカは、なぜ、7600億ドルも使うのかというと、もちろん、国際政治を自分に有利な方向に、着々と変えて行きたいからなわけですね。
今の国際政治で、そういう傾向が一番顕著なのが、やっぱり、アメリカと中国とロシア。
アメリカと中国とロシアという3つの国は、明らかに攻撃的なリアリストの政策を実行しています。
例えばアメリカは、世界に、現在67カ国の正規の軍事同盟があるわけですね。
そうすると、この67の国のどれか一つが、他の国に攻撃されたら、アメリカは軍事介入するというふうな約束をしているわけですよ。
本当にやるかどうかは別にして。
だから、先ほども言いましたように、67の国が、他の国に核ミサイルを撃ち込まれたら、アメリカはたぶんそれを見捨てますよね。
だって、アメリカは、同盟国の為に、核戦争をするつもりは無いわけですから。
でも、少なくとも通常戦力レベルでは、一応は、巻き込まれるという約束をしているわけですね。
だけど、アメリカの安全を保障する為に、67カ国もの国と、軍事同盟関係に入る必要があるかというと、もちろん、そんなものは無いわけです。
自分の国を守りたいんだったら、67もの、同盟関係を作るなと。
そうでしょ。
67もの、同盟国があったら、世界中のどこで紛争に巻き込まれるか、分かったもんじゃないわけでしょ。
だから、67も同盟国を持ったら、逆に、自分の国にとって、不必要な軍事紛争に巻き込まれる可能性を、どんどん増やしているだけで、有利ではないわけですよ。
ところがアメリカっていうのは、世界覇権を握りたいと思っていますから、67の諸国を軍事同盟して、世界の確か、八百数十か所に軍事基地を置いていて。
67カ国の他にも、他の国に軍事力を駐留させていまして、実は現在、世界の130カ国に、米軍を置いているんですね。
僕は、八百数十か所も軍事基地を作って、130カ国に米軍を駐留させるっていうのは、決して賢いやり方ではないと思うんですけど、とにかく、アメリカ人は、世界覇権を握りたいと。
もしくは、攻撃的なリアリストとして、国際的なパワーバランスを、自分たちに優位な方に変えて行きたいというふうに思っていますから、7600億ドルを毎年使って、それで、67カ国と軍事同盟を結んで、130カ国にアメリカ兵を駐留させるという事をやっているわけです。
僕が好きなのは、防御的なリアリストであって、攻撃的なリアリストっていうのは、好きじゃないんですけど。
僕が好きな、防御的なリアリストで、1947年からソ連封じ込め政策というのが実施されたんですけど、ソ連に対する封じ込め政策を、実質的に発案した、ジョージ・ケナンという人がいるんですね。
この人は、単に国際政治の戦略家として立派なだけではなくて、文明思想家としても非常に立派な人で。
先ほど言いましたけれども、保守派には2つの保守派があるというふうに申し上げましたけれども、ケナンという人は、典型的な、古典的な保守、正統的な保守であって、自分の温存したい価値判断というものがあるから、彼は保守をやっているわけであって。
他の国が憎いからとか、左翼が憎いからという理由で保守派になったわけではないわけです。
ついでに言いますと、10年くらい前に亡くなった、ハーバードの、サミュエル・ハンティントンという人も、古典的な保守、もしくは正統保守なわけですね。
話はちょっとずれますけれども、有名な詩人で、T・S・エリオットという人がいるんですね。
彼も、古典的な保守なわけですね。
僕が好きなアメリカ人とかヨーロッパ人というのは、殆ど全員が、古典的な保守主義、もしくは、正統な保守主義なわけですね。
少なくとも、30年以上、アメリカとかヨーロッパに住んでいる僕としては、こういう人たちが、一番、信用できると。
彼らはもちろん、保守陣営の中では少数派なわけです。
だから、僕自身は保守主義だけれども、アメリカの保守陣営の中では、いつも少数派の味方をするわけですね。
多数派っていうのは、面白くないんですよ。
要するに、多数派っていうのは、先ほど言いましたように、左翼の悪口を言っているだけですから。
左翼の悪口を言っている人を相手にしていても、こっちも面白くないと。
もう一回、ケナンの話に戻しますけれども、ケナンは、防御的なリアリストでした。
ハンティントンも防御的なリアリストでした。
ケナンとか、1920年代から1960年代まで、アメリカで一番影響力があったウォルター・リップマンという評論家がいるんですね。
彼は、政治評論家であり、外交評論家だったんですけれども。
ウォルター・リップマンもディフェンシブなリアリスト、防御的なリアリストだったわけです。
非常に面白い事に、第二次世界大戦中に、ウォルター・リップマンと、ケナンの意見が一致した事があって。
それは何かというと、そもそも、リップマンもケナンも、日本と戦争をしたくなかったんですよ。
そんなの関係ないって。
日本が中国で何をやっても関係ないと。
もちろん、ケナンもリップマンも、日本が中国大陸を占領して、泥沼の状態になって、日本はお馬鹿さんだねと。
あんなことやらなきゃいいのにと思っていたわけですけれども、だからといって、ルーズベルトみたいに、日本を叩き潰したいというふうには思っていなかったわけです。
で、ケナンとかリップマンは、日本とイギリスと、それからアメリカは、国際政治の視点からは、同じような立場に置かれていると。
それは何かって言うと、日本はユーラシア大陸の一番東側にある島国なわけですね。
で、ユーラシア大陸の一番西側にある島国が、イギリスなわけです。
それから、ユーラシア大陸から離れて、太平洋と大西洋の真ん中にある巨大な島国がアメリカなわけです。
そうすると、リップマンとケナンは、なんといったかというと、日本もイギリスもアメリカも、ユーラシア大陸の陸上戦には、巻き込まれるべきではないと。
日本とかイギリスとかアメリカが、ユーラシア大陸を占領しても、碌な事はないと。
じゃあどうすればいいのかというと、日本とアメリカとイギリスは、オフショアバランサーと、要するに、アメリカもイギリスも日本も、ユーラシア大陸に陸軍を送り込んで、ユーラシア大陸を占領するような戦争に、巻き込まれるなと。
要するに、ユーラシア大陸から離れて、自国に対して脅威を及ぼすような覇権国が出現した場合には、ユーラシア大陸に直接軍事介入するんではなくて、海軍を使って、巨大な覇権国を封じ込めるように努力した方がいいと。
これを、オフショアバランサーというふうに言うんですけど。
ケナンもリップマンも、アメリカもイギリスも日本も、オフショアバランサーの戦略を取った方がいいと。
で、このオフショアバランサーというのは、もちろん言うまでもなく、巨大なユーラシア大陸の陸上戦争に巻き込まれたくないというわけですから、防衛的なリアリストなわけでしょ。
防衛的なパラダイムを提唱していて。
数十名の著名な学者の本を読んでいて、僕も日本は防御的な自分の国の安全を最優先して、防御的な態度で、覇権国をカウンターバランスするというふうな立場を取った方がいいと。
それから見ると、日本が朝鮮半島を併合して、そのあと、中国に、21カ条の条約を突き付けて、中国大陸に出て行って、満州を占領して、中国を占領したと。
こういう行為は、攻撃的なリアリストポリシーであって、ディフェンシブなリアリストポリシーではなかったわけですね。
だから、朝鮮半島を併合した1910年から2021年まで、過去111年間の日本の国際政治のパラダイムというのは、防御的なリアリストパラダイムを実行した方が良かったというふうに思っています。
ケナンとかリップマンも、日本は、オフショアバランサー、要するに防御的なリアリストであった方がよかったと言っているわけですね。
自分の取るべきパラダイムというのを、はっきりさせると、自分の歴史に対するものの見方というのも変わって来るわけです。
アメリカで、攻撃的なリアリストの一番有名な人は、57年くらい前までは、ハンス・モーゲンソーっていうシカゴ大学の国際政治学教授だったわけですね。
1960年代くらいまでは、とにかくハンス・モーゲンソーの国際政治学の教科書というのは、これはアメリカで最も広範に使われていた、国際政治学の教科書です。
このハンス・モーゲンソーと、皆さんご存じのヘンリー・キッシンジャーは、また、シカゴ大学なんですけれども、現在活躍中のジョン・ミアシャイマーというこの3人が、攻撃的なリアリストのパラダイムの一番有名な人です。
ハンス・モーゲンソーっていうのは、ユダヤ人で、キッシンジャーもユダヤ人ですけれども、モーゲンソーとキッシンジャーは、ドイツのナチスから逃れてアメリカに来て、国際政治学者になった人です。
だから、ドイツから逃げて来たくらいですから、国際政治に対する、ものの見方というのは、非常に厳しくて。
要するに、タフで、時には攻撃的な政策を取っても、覇権闘争に負けてはいけないという考えを持ったわけですね。
特に、モーゲンソーは、国際政治、それから国内政治における人間の政治行動の事を、アニムスドミナンディーと、これはラテン語なんですけれども。
アニムスっていうのは、精力とか活気とか、体の内側から湧き出て来る動物的な意欲ですね。
ドミナンディーっていうのは、ドミネイト。
要するに、他人をドミネイトしたい、優位な立場に立ちたいとか、支配したい、屈服させたいという。
他の人を押さえつけたいと。
他の人よりも優位な立場に立ちたいと。
他の人に対する支配力ですね。
国内政治においても、国際政治においても、人間も国家もアニムスドミナンディーによって動かされているというふうな見方をした人です。
国際政治っていうのは、常に優越したヘジェモニックポジション、覇権的な地位を確保しようとする永遠の闘争になるわけです。
これは、実際には少なくともアメリカ、中国、ロシア、それからイスラエルと。
この4か国を見る限り、はっきり言って、これは攻撃的なリアリストとして、行動している事は事実ですから。
だからこれは、間違いがないんですけれども。
防御的なリアリストパラダイムを支持する、ケナンとか、リップマンとか、ケネス・ウォルツという非常に立派な人がいるんですけど。
彼は、カリフォルニア大学のバークレー校とコロンビアで国際政治学を教えていたんですけれども。
ケネス・ウォルツとか、要するに攻撃的なパラダイムを実行すると、もう覇権闘争に際限がないと。
覇権闘争が、どんどん、どんどん険悪化するだけで、人間というのは、もう、争うのも、そこら辺にしておいた方がいいよと。
あんまり、しつこく相手を追い詰めない方がいいとかね。
常に強い立場に立とうとして、他の人、もしくは他の国を屈服させようとすると、逆にろくでもない紛争に巻き込まれるからやめといた方がいいと。
これが、ディフェンシブなリアリストパラダイムなわけですね。
攻撃的なリアリズムっていうのは、18世紀の中頃までは、ある程度は効力があったわけです。
有効だったわけですね。
その理由は、18世紀の中頃までは、まだ王様と貴族と軍人が国際政治をやっていて、普通の国民は、18世紀の中頃までは、国際政治に参加しなかったわけです。
だから、庶民っていうのは、どこの王様が、別の王様と戦争して、領土を取ろうが、賠償金を取ろうが、それは庶民には関係がないと。
あんまり巻き込まれないという感じだったんですね。
だから、そういう時に、攻撃的なリアリストパラダイムを採用しても、国民すべてが動員されるわけじゃないですから。
世界戦争になるとか、大戦争になるという事は無かったわけですね。
ところが、フランス革命のあと、世界中に、民主主義とか自由主義とか、人権思想とか平等主義を求める政治思想が広がって、1948年に、ヨーロッパ諸国で、非常に大きな国で、革命騒ぎが起きたわけです。
この革命騒ぎっていうのは、殆どが失敗したんですけれども、それにも関わらず、非常に大きな国が1948年の革命騒ぎに参加したもんだから、ヨーロッパ諸国の国民の政治意識が、変わってしまったんですね。
特に、1948年の革命騒ぎから後は、庶民が外交に参加するという事が普通になったわけです。
要するに、普通の国民も、外交政策はこうした方がいいとか、軍事政策はこうした方がいいとか、いっちょまえの理屈を言うようになって、発言権を行使するようになったわけですね。
そうすると、政治家の皆さんは、この頃から、民主的な選挙というものも広がって来ましたから。
そうすると、政治家は、どこの国でもナショナリズムを掻き立てて、ナショナリズムに置き換えて、影響力、もしくは権力を獲得しようという動きをするわけですね。
そうすると、18世紀までの国際政治と違って、19世紀の中頃からの国際政治っていうのは、庶民の外交意識と、それから国民レベルのナショナリズムというものを無視して、外交政策をやる事が不可能になったわけです。
そうすると、どうなるかというと、そういう時に攻撃的なリアリズムを実行すると、他民族のナショナリズムを敵にまわす事になりますから、だから、戦争自体が非常に熾烈なものになって、やるかやられるかと。
それで、勝った国は負けた国の国土を占領して、巨大な賠償金を取り立てて、ついでに民間人もいっぱい殺害すると。
戦争が非常に大規模になって、しかも、血なまぐさくなって来たわけです。
そうすると、18世紀の中頃までは、攻撃的なリアリストポリシーを取って、領土とか賠償金の取り合いを王様とか貴族とか軍人がやっていても、それは小規模で済んだわけですよ。
だから、普通の国民は、あまり、直接的な被害を被らなかったんですけれども19世紀の戦争というのは、国民皆兵ですから、普通の庶民も全員軍隊に駆り出されて、戦場に送られて、もう科学技術の発達と同時に、要するに戦死者がどんどん、どんどん、もの凄い勢いで増えるわけですね。
そういう状態になって、攻撃的なリアリストパラダイムを実行すると、本当に攻撃的な政策を取った諸国は、得しているのかというと得しないわけですよ。
だから、19世紀の中頃からは、明らかに防御的なリアリズムを実行した方がいいと。
時代が変わったわけです。
これはだから先ほど言いましたように、国民の政治参加、国民の皆兵、それから科学技術の進歩によって、軍事力による殺人能力というのが、何十倍、何百倍にもなってしまったと。
だから、攻撃的な事をやると、その結果はどんな事になるか、分かったもんじゃないと。
歴史に残る外交三賢人という書籍、ビスマルク、タレーラン、ドゴールという本なんですけれども。
この3人は、リアリスト外交で成功した3人なんですね。
そうすると、国際政治というのは、こういうふうに考えて、こういうふうに実行するのかと。
3人共、もの凄く優秀な人なんですけれども、ある特定の外交パラダイムをきちんと考えて、その外交パラダイムを実行に移すと、どういうふうになるのかという事を具体的に説明したのが、歴史に残る外交三賢人で。
特に一番凄いのが、ビスマルクでね。
過去300年間の国際政治でも、ナンバーワンですね。
世間では、タカ派のおっかないおじさんだというふうに思われているんですけれども、とんでもない事で。
彼はもう、戦争が、嫌で嫌で、しょうがないと。
ドイツを統一した後は、どうしたら、周りの国と戦争をしないで済むかと。
しかも、彼が凄く偉かったのは、ドイツ帝国を作ってから、ドイツ陸軍というのは、もう世界一の強い軍隊になったんですね。
だから、ドイツ軍が、ロシアであれ、オーストリアであれ、フランスであれ、他の国を攻撃して領土を取ったり、賠償金を取ったりすると、いくらでも取れるという状態だったんですけれども、ビスマルクの口癖が、「勝てる戦争をやってはいけない」と。
普通、負ける戦争をやってはいけない、というのは、普通の人は誰でも言えるんですけれども、ビスマルクは例え、いくら戦争に勝てても、戦争に勝つなと。
戦争に勝っても、ろくな事が無いと。
なんでかっていうと、ビスマルクは、19世紀っていうのは、どういう時代かっていうのを理解していましたから。
先ほど言いましたように、ナショナリズムとか民主主義とか、平等主義とか人権主義ですね。
そういう事を信じている人達、国民を敵にまわすと、どうしようもない、泥沼の、血まみれの闘争になってしまうと。
そうすると、彼は、本来は、若い頃は非常に攻撃的な人だったんですけれども、ドイツを統一して、ドイツ帝国を作った途端に、もう、攻撃的な事をやってもしょうがないと。
攻撃的なリアリズムっていうのは、国家の利益にならないというふうに悟って、退官するまで、徹底的に防御的なリアリストポリシーを実行した人なんですね。
過去300年間の国際政治で、これほどまでに、鮮やかに変身した人はいないわけで。
僕は、ビスマルクの事を調べていて思ったのは、この人はやっぱり天才だと。
天才だから、殆ど直感的に、180度、自分のやっている事を変えるような判断が出来たわけですね。
19世紀の後半からは、攻撃的なリアリズムよりも、防御的なリアリズムをやった方が、国益を維持出来るという時代になったという事の典型が、ビスマルクなわけですね。
日本は、日清戦争と日露戦争に勝ったわけですけれども、僕としては、日露戦争に勝った時点で、日本はオフショアバランサーになって、他の国となるべく貿易だけしてお金儲けをするようにして。
朝鮮民族とか、漢民族を支配するっていうのは、はっきり言って、彼らを支配しようとすると、どうしようもない泥沼に巻き込まれて、ろくな事がないんですよ。
他の国を占領して、支配しても、長い目で見ると、50年、100年の目で見ると、碌でも無い事の方が多いわけです。
はっきり言って、我々日本人は、日韓併合して、中国を占領して、もちろん、アメリカに叩きのめされて、撤退したわけですけども。
もし、アメリカに叩きのめされなくて、そのまま、朝鮮半島と中国を占領していたら、我々は、うまく占領出来たかと。
で、中国人とか朝鮮人と仲良く平和共存出来たかというと、僕はそうは思わないわけです。
もう、朝鮮人も中国人も、タリバンみたいにね、徹底的に、執拗に、30年間、40年間、50年間も、内戦を仕掛けて来て、日本自身も、酷い目にあったと思うんですね。
それは、19世紀の後半からは、他の民族を占領して、支配するような事は、もう、コストが高いと。
利益よりも、政治コスト、外交コスト、軍事コストの方が高いという状況になったから、19世紀の中頃からは、防御的なリアリストポリシーを取った方がいいと。
アメリカに関して言いますと、アメリカというのは、少なくとも、よくいって、攻撃的なリアリスト。
悪く言うと、次にいう、ヘジェモニックスタビリティセオリー、覇権による安定理論で、覇権主義国家なわけですね。
東西冷戦が終わってからのアメリカっていうのは、攻撃的なリアリストとして行動し、もしくは、覇権による安定理論を採用して、アメリカが世界覇権を握って、世界中を支配するんだと。
そういう理由で、二十数カ国に対して、非常に強引な内政干渉をしたり、これらの国で、クーデターをやらせて、支配者を、一方的に変えちゃうと。
もしくは、一方的に軍事介入すると。
もしくは、侵略戦争をやって、占領するという事を二十数カ国に対してやって、それらの国で、三百数十万人の民間人を死亡させたわけですけれども。
それで、アメリカの立場はよくなりましたかというと、なっていないでしょ。
要するに、イラクを占領しても失敗しているし、シリアとかリビアで内戦を起こしても失敗するし、イランとの関係も悪くなっているし、アフガニスタンからも最近、逃げ出したばっかりだし。
もう、ろくな事が無いわけですよ。
アメリカもだから、東西冷戦、要するにロシアとの冷戦に勝った後は、防御的なリアリストになればいいのに、それをもう野心的なもんだから、攻撃的なリアリズムを実行して、三百数十万人の民間人を死亡させて、世界中で評判が悪くなって。
しかも、自分たちの国益も巨大なロスを被ったと。
で、国民の不満は高まって、トランプが出て来て、それで今はバイデンで、全然人気が無いでしょ。
だから、攻撃的なリアリズムとか、覇権安定理論を振り回す覇権主義というのは、やめておいた方がいいという事なわけです。
最後に、覇権による安定理論を言いますけれども。
覇権による安定理論というのは、リアリスト外交とはちょっと違っていて。
リアリスト外交っていうのは、最初に説明しましたけれども、国際政治の4条件というのがありますから、バランスオブパワーを、勢力均衡の状態を維持した方がいいと。
これが、リアリスト外交ですね。
ところが、覇権による安定理論というのは、ヘジェモニックスタビリティセオリー。
覇権を打ち立てれば、それによって安定化するという議論なわけですね。
これは、僕に言わせれば、かなり怪しいわけです。
で、うまくいっていないんですけれども。
アメリカは、この覇権による安定理論を追及しています。
ついでに言うと、中国も覇権による安定理論を追及しているんですね。
だから、中国は、自分の国を中心とするヘジェモニックスタビリティ。
中国の覇権を他の国に波及させて、中国がアジア、太平洋を安定させて、統治したいと。
アメリカはアメリカで、アメリカが世界覇権を握って、太平洋もアジアも、ヨーロッパも、アメリカが安定化させて、支配したいと。
だから、アメリカ人も中国人も、似たようなもんで。
自分たちが、世界の中心の主人公になって、他の国に対して、自分たちの勢力を誇示すれば、他の国は言う事を聞くだろうと思っているわけですね。
これはもちろん、バランスオブパワー外交ではないわけです。
バランスオブパワー外交というのは、4つか5つの大国が、互いにバランスして均衡状態を維持するという外交政策でしょ。
ところが、ヘジェモニックスタビリティ、覇権による安定というのは、一つの国が、バーンと強くなって、他の国を威圧して、他の国がその覇権国に服従するという状態を作りたいわけです。
リアリスト外交というのは、均衡を目指しているわけです。
ところが、覇権による安定理論というのは、階層、序列。
要するに、誰が偉くて、誰が下っ端かと。
ヒエラルキーを明確にしたいという理論なわけですから。
発想が違うわけです。
僕は、ヘジェモニックスタビリティセオリーというのは、失敗すると思っているんですけれども、アメリカと中国は、成功すると思っているみたいで。
アメリカも中国も、非常に自分中心で、うぬぼれた国ですから。
アメリカ人も、中国人も、自分たちが一番偉いと。
自分たちが中心で、世界を統治すれば、世界はよくなると本気で思っていますからね。
だから、ヘジェモニックスタビリティセオリーをやりたがるわけです。
アメリカでこのヘジェモニックスタビリティセオリーを実行した人たちで、一番有名なのが、ハーバードの、ジョセフ・ナイという人と、プリンストンとジョージダウン大学で先生をやっていたジョン・アイケンベリーと。
二人とも、民主党派なんですけれども。
クリントン政権時代から、アメリカが世界覇権を握れば、世界を統治できると。
一番有名なのが、ジョセフ・ナイが、アメリカは世界一の覇権国であり、ハードパワーと、ソフトパワーの両方を持っていると。
ハードパワーというのは、軍事力、経済力、それから、科学技術力、政治力なわけです。
ソフトパワーというのは、彼に言わせると、アメリカ文化の魅力だとか、アメリカ民主主義だとか、アメリカ人権外交だとか。
彼はそういうふうに言うんですけれども、僕は、それが本当に魅力なのかどうかは、分からないんですけれども、とにかく、ジョセフ・ナイっていうのは、非常にナルシストなわけですよ。
凄く気取っていて。
自分くらいの秀才はいないという感じで、もの凄くうぬぼれている人なんですね。
だから、自分がうぬぼれていると、アメリカの外交政策にも、そのうぬぼれが出て来て。
アメリカはとにかく、ハードパワーとソフトパワーを両方とも持っているから、世界中の国は、アメリカの言う事を聞く事になると。
だから、アメリカの世界覇権は、非常に長い期間続くと。
彼がいうには、中国も、アメリカのハードパワーを非常に尊敬していると。
しかも、中国人は、アメリカのソフトパワーが、好きで好きでしょうがないと。
アメリカのカルチャーに、凄く憧れていると。
だから、中国がどんなに大きくなっても、あの人達は、アメリカに対して、非常に従順だから、絶対にアメリカに対抗するなんていう事はあり得ないと。
自信たっぷりの態度で、ジョセフ・ナイは言っていたわけですね。
ジョン・アイケンベリーも、同じなわけですね。
民主党だけではなくて、共和党も、もちろん、覇権による安定理論に賛成していまして。
イラクのサダムフセインが、アルカイダと何の関係もないのに、大量破壊兵器なんか持っていないのに、わざわざ喧嘩を吹っ掛けて、イラクを占領して、アメリカの属国にすれば、アメリカは中東を確実に支配出来ると。
イラク侵略戦争をやった時に、コンドリーザ・ライスが、安全保障補佐官だったわけですけれども、彼女が何を言ったかというと、「イラクを敗戦後の日本みたいな国にすればいい」と。
敗戦後の日本というのは二度と独立しないと。
全部国防政策は、アメリカの言いなりになると。
思いやり予算という名前で、米軍の駐在日まで全部支払うと。
しかも、周りの国が全て核武装しても、日本人だけは核兵器を持つなというふうに、アメリカに命令されると、それに服従して。
核の傘が、例え機能しなくても、それから、ミサイル防衛システムが機能しなくても、アメリカに服従すると。
で、コンドリーザ・ライスは、イラクを日本みたいな国にしたいと。
日本みたいな属国にして、宗教を支配するんだと。
もう、それは全く失敗したわけですね。
イラク人というのは、そんな生易しい連中じゃないですから。
アフガニスタン人と同じで、軍事的に占領されても、いう事を聞かないと。
だから、民主党だけではなくて、共和党のネオコンっていうのがいたでしょ。
ネオコンっていうのは、元々、イスラエルロビーなんですけれども。
イスラエルロビーの一番右翼が、ネオコンになって。
殆どユダヤ人ですけれども、そのネオコンたちが、共和党政権に入り込んで、それで、ポール・ウォルフォウィッツとか、ああいう連中が、煽り立てて、アメリカをイラク戦争に引き込んでいったわけですね。
要するに、共和党も、このヘジェモニックスタビリティセオリーに加担したと。
最終的にはうまくいかなかったと。
最後になりますけれども、このヘジェモニックスタビリティセオリーを2人の非常に有力な外交関係者が弁護しているんですね。
一人は、CFR、外交問題評議会ですか、それの会長をやっているリチャード・ハースという人なんですね。
このリチャード・ハースというのは、ブッシュ政権の時に、国務省の政策立案局の局長をやって、国際法違反のイラク侵略戦争を企画した人です。
このリチャード・ハースが、今、CFR、外交問題評議会の会長をやっていまして。
彼がいうには、「アメリカ外交の、主要課題というのは、他の国をアメリカの国益に奉仕するような体制に組み込んでいくことである」と。
だから、世界中の国を、アメリカの利益になるような体制に組み込んでいく事が、アメリカの主要な課題であると。
それとは別に、スティーヴン・ウォルトというハーバードの国際政治学者がいまして、彼も似たような事を言っているんですね。
だけど、ウォルトさんは、皮肉っぽく言っていて。
リチャード・ハースがこういうヘジェモニックスタビリティセオリーを実行した主要な人物だったのに反して、ウォルトさんは反対なわけです。
とにかく、スティーヴン・ウォルトに言わせれば、「冷戦に勝った後、アメリカは他の国を作り変える」と。
要するに、アメリカの設計した通りに他の国を作り直して、アメリカの世界支配体制に組み込んで行くことだと。
もう一度言いますけど、ウォルトさんは、この政策に、反対なんですよ。
こういう事をやるから、アメリカは世界中で嫌われるんだという事を説明する為に、彼は、アメリカは他の国を作り直すと言っているわけですね。
過去30年間、アメリカは、日本に対して何をやってきたかというと、もう、リメイクジャパンでしょ。
要するに、アメリカ人の設計図にあわせて、ジャパニーズを組み込んで行くと。
アメリカの国際政治政策っていうのは、最初から他の国をリメイクと。
お前たちを作り直してやるぞと。
対日貿易交渉なり、対日経済交渉で、日本の経済構造も、アメリカの資本家とか、アメリカの大企業に都合がいいようにリメイク、作り直しちゃうと。
日本経済も、アメリカ人に奉仕するように、作り直すという事を、ヘジェモニックスタビリティセオリーに従って、やって来たわけです。
僕の大好きなケナンも、「アメリカの外交政策は、世界中の諸国をアメリカのイメージに合わせて作り変えようとする政策である」と。
ケナンは、こういう政策が嫌いだったんですよ。
嫌いだけれども、彼は、アメリカはとにかく他の国を、アメリカのイメージ、アメリカの設計したように、アメリカが考えるように作り変える外交であると。
で、彼らは、過去76年間、それを日本に対して、徹底的にやってきたわけです。
で、気が付いてみたら、日本はいつまで経っても自主防衛出来ないと。
しかも、日本の利益は、どんどん、どんどんアメリカの資本家とか、投資家に吸い取られて行くと。
アメリカのカジノ業者まで、受け入れさせられると。
その一方、北朝鮮とか中国とかロシアは、どんどん、どんどん、核ミサイルを増やしているから、アメリカは、益々日本を、いざとなれば防衛できない状態になっていると。
それにも関わらず、日本人には、自主防衛能力を持たせないと。
なぜならば、それが、アメリカのイメージに合わせて、日本を作り変えた結果だからなわけですね。
これが、アメリカのヘジェモニックスタビリティなわけです。
そういう事を考えると、アメリカのヘジェモニックスタビリティセオリーというのが、単に中東とか、アフガニスタンだけではなくて、日本にも非常に大きな影響を及ぼしていると。
最後になりますけれども、MITの軍事学者に、僕の好きなバリー・ポーゼンという人がいるんですね。
この人が、数年前に自己抑制という本を出しまして。
彼が、この本の中で言っている事が、非常に面白いので最後にこれを引用します。
なんて言っているかというと、
「日本人は、アメリカとの同盟関係で、一切自己主張しようとしない。日本の軍事関係者は、アメリカの在日の軍事基地を、実際にどのように使用するかという事を殆ど知らない」と。
防衛省も、自衛隊の高官も、実際には、アメリカは日本の軍事基地を、どのように使用しようとしているか知らないと。
「日本人に、この事に関する発言件は、殆ど何もない」と。
で、彼が言うには、
「アメリカが在日米軍として、日本に駐留し続ける理由は、日本の核保有を阻止する為である」と。
「日本におけるアメリカの米軍の駐在が、日本に核を持たせない為の機能を果たしている」と。
「しかし、どんな小さな国でも、少量の核兵器を保有すれば、他の国に攻撃される危険から逃れる事が出来る」と。
「日本は、現在のような対米依存関係から離脱すべきである」と。
「日本の選択肢は、日本独自の核抑止力を持って、自主防衛をする事である」と。
「今後、中国がますます強力になっていくならば、東アジアにおける核の拡散」
つまり、日本が核保有する事ですね。
「核の拡散は避けられない」と。
「そうであるから、日本とアメリカの関係は、改造されるべきである」と。
「日本が核を保有する事を、アメリカは受け入れるべきである」と。
こういうふうに、バリー・ポーゼンさんは言っております。
要するに、彼は軍事学者なんですけれども、攻撃的なリアリズムと、ヘジェモニックスタビリティセオリーには、反対なわけですよ。
そんな事をやっても失敗すると。
彼は、20年前から、アメリカの外交政策と軍事政策は、失敗すると、ずっと予言していましたから。
だから、一貫しているんです。
で、現在、中国がどんどん、どんどん強くなっているのを見ると、彼は、アメリカの政策は、日本人にだけは核保有させないという政策であって、米軍が日本に駐留しているのも、日本に核を持たせない為であるけれども、こういうやり方は、やめた方がいいと。
中国がここまで強くなってしまった以上、日本が核を持って、東アジアで、ある程度、核戦力を他の国が持つようになる事はやむを得ない事であると。
これは、ポーゼンさんが言っております。
で、僕もそれに賛成です。