目次
- 1 EU離脱の影響と意味する事
- 2 英国の実質賃金が8%低下した理由
- 3 EUに存在しない民主的正当性
- 4 EUが英国のEU離脱に課した厳しい条件
- 5 英国に突き付けられる厳しい現実
- 6 EU離脱は英国の民主主義の回復
- 7 EUの美化されたイメージと英国の見せしめ
- 8 EUによる囲い込みの手口
- 9 やり手企業も行う囲い込みの手口
- 10 EUが囲い込み完了した経緯
- 11 TPPの交渉参加にさえ反対した理由
- 12 日本が既に手遅れで後の祭りな理由
- 13 米国トランプがTPP交渉から離脱出来た理由
- 14 日本の絶滅と本格的な移民国家への道
- 15 日本が米国に一切逆らえない理由
- 16 日米同盟を歓迎していた中国のしたたかな戦略
- 17 日本はもう没落しかない理由
- 18 偉人が語る世界の現実
- 19 珍しくもない国の没落
- 20 苦難を乗り切るニコロ・マキャベリの言葉とイタリアの没落
- 21 西洋の没落をあらわしたシュペングラーの言葉
EU離脱の影響と意味する事
まず没落の意味を議論しようということなんですけども、まずブレグジット、英国の EU 離脱の話題から入りたいと思います。
当たり前の話ですけれども、ブレグジット後の英国は、EU加盟国としての特権を失うということになります。
しかしながら、それは実のところ英国にとって実は大した問題ではない。
というのは、単に特権を失うといっても、米国、中国、日本も入れていいんですけど、多くの非EU加盟国と同じ条件で取引を行うという、それだけの話だということです。
したがってまあ大した問題じゃないだろうと。
そもそもあまり知られてないかもしれませんが、英国のGDPに占めるEU 向けの輸出というのは15%程度に過ぎないと。
しかも、英国の対EU貿易収支は赤字です。
従って、欧州単一市場のアクセスによる貿易の恩恵っていうのは、実は英国に関してはそれほどあったわけでは、そもそもないという事です。
それどころか、英国がEUに加盟した1973年から40年間で英国の商品輸出のEU14カ国向けのシェアというのは、実は2%低下しています。
逆に、英国が加盟する前の1960年から1972年の間だと、同じその欧州14カ国向けのシェアは実は12%増えていました。
要するに欧州市場に、EUに加盟した方が、輸出が減っているということですね。
しかも、欧州単一市場が発足した1993年から2011年までの間、単一市場に属しない国の多くが、英国よりも欧州単一市場への輸出を伸ばしていましたということです。
したがって、輸出先としてのメリットというのは実はあまりなかったと。
英国の実質賃金が8%低下した理由
その一方で、英国は2008年から5年間で実質賃金が8%も低下しました。
これは、低賃金労働者が移民として流入し続けたためで、実はその移民の純増数は2015年に33万人を超えたということです。
要するに、安い低賃金の労働者がいっぱい入ってくるので賃金が下がってしまうということですね。
しかしEUに加盟している限りは、ルール上、英国には移民の流入を制限する権限がありませんので、実質賃金の低下を止められないと。
でももしブレグジットすることによって移民の制限が可能となれば、実質賃金の低下の圧力というのは緩和することになりますので、英国の労働者は恩恵を被る、ブレグジットによって恩恵を被るでしょう。
EUに存在しない民主的正当性
今の問題は経済の問題ですけど、問題は経済だけではなくて、まずEUの加盟国というのはEUの意思決定に服さなければならないですけれども、EUの意思決定という、各国の有権者による選挙の洗礼を受けていない欧州委員会や加盟国の指導者によってなされます。
要するに民主的正当性がないんですね、EUの意思決定、それに服さなきゃいけないということです。
要するにEUの決定というのは、加盟国の民主的な意思決定を制限し、国民主権の一部を剥奪しさえするということで、 EUというのは実に反民主主義的な仕組みであります。
ということは、イギリスがブレグジットによってEUから離脱をすれば、先ほどの実質賃金の低下圧力が緩和するだけではなく、英国は民主主義を取り戻すということになります。
もしそのことが明らかになれば、ブレグジットは他のEU加盟国でも、じゃあ離脱した方がいいんじゃないかという動きを加速させるかもしれないというふうな議論もあり得て、実際、親EU派はブレグジットによって連鎖的に離脱が広がることを懸念しています。
EUが英国のEU離脱に課した厳しい条件
ところが実際には、残念ながら、ことはそう簡単には運ばないのであります。
それはなぜか。
問題は、離脱後イギリスがどう良くなるかという問題にあるんじゃなくて、離脱までの過程が大変だという、離脱後の状態が問題なんじゃなくて、離脱までの過程に実は問題があります。
英国は2019年3月29日までにEUから離脱しなければならないということになっていまして、それまでに英国は離脱の条件についてEUと合意をしなければなりません。
しかしあと半年を切っているというのに、その合意のメドが未だに立っていないということです。
もし合意できない、合意に失敗した場合は合意なしの離脱ということになります。
しかし、合意なしの離脱について英国政府は全く準備が完了しておりませんで、いくつかの分野、いくつも分野はあるんですけど、EUプログラムと基金、これに関しては準備が完了してますが、
他の9分野、国境、移民、市民、あるいは農業、漁業、食料、保険、運輸、サービス、エネルギーと環境、競争、税とデータ、司法、こういった分野については合意なしの離脱の場合、どうしたらいいかというのは何の準備もできていないということです。
今交渉、難しい交渉をやっていますけど、仮に11月にEUと英国が合意に至ったとしても、合意の後は英国議会においてEUとの合意を批准し、英国法に直して法制化をするとともに、膨大な数の関連法令を整備するという作業がまだ残ってるわけですけど、議会の会期がもうりわずか2カ月しかないと、まあもう無理ですね。
仮に以上の作業を奇跡的に成し遂げたとしても、次に英国は、今度は2020年の12月までの移行期間中にEUとの新たな関係を決める新たな通商協定に合意をし、かつ批准をしなければならないんですけれども、これはもうほぼ絶望的といっていいでしょう。
どうしてかというと時間がなさすぎる。
例えばEUとカナダは自由貿易協定を締結するまでに7年も費やしたわけですね、そんなの無理に決まってると。
英国に突き付けられる厳しい現実
このままですとブレグジットしたはいいけれども、準備不足、圧倒的な準備不足で法的な空白状態、何も決まらないのでどうしたらいいかわからないような法的な空白状態をもたらす恐れが非常に高い。
そうすると、企業や消費者は混乱して多大な経済的打撃がもたらされるでしょう。
要するにこういうことです。
繰り返すと、英国がEUに加盟してないこと、それ自体は、実は英国にとってさしたる問題ではない。
むしろ経済的あるいは政治的な恩恵をもたらす可能性すらある。
EU離脱は英国の民主主義の回復
その意味でEU離脱っていうのは私は正しい選択だったと思いますが、EU離脱のための作業が、多大な手続き上のコストを必要として、さまざまなリスクを伴うので問題だということで、
いわゆるブレグジットに伴うリスク、デメリットって言われるのはブレグジットした結果にあるのではなく、ブレグジットするまでの過程にもたらされる、その過程にあるということなんですね。
この問題というのは、非常にEUに関する重大な問題を提起していると思います。
すでに述べましたようにブレグジットというのは労働者が被る不利益を是正するだけでなく、英国の民主主義を回復するものでもあると。
そもそもブレグジット自体がどうやって決まったかというと、国民投票というイギリス人たちの民主的な意思決定によって決まったものなんですね。
ところがそれを、そのブレグジットという民主主義の実現をしようとするとですね、その前にEUとの間の国際協定の締結とか、それに関連する一連の法手続きで膨大な作業が立ちふさがっていて邪魔をしていると、できないと。
それ以前に、そもそもブレグジットを決めるのに国民投票という大騒ぎをしてギリギリ離脱派が上回るっていう、針の穴を通すような冒険をしなければEUから離脱するってことすら決められなかったわけですね。
EUの美化されたイメージと英国の見せしめ
要するにEUは、民主主義でイギリス人たちが何かやろうとしても、実際にはそれができないような仕組みになっているということです。
EUの枠組みによって不利益を被り、不満を募らせる加盟国、あるいはその国民、とりわけ労働者は少なくありません。
各国で日に日に増えています。
しかし彼らが民主的な意思決定によってEU離脱を選択しようものなら、困難な離脱手続きがもたらす経済的不利益、こういう多大なペナルティを覚悟しなければなりません。
EUという枠組みは、そういう仕組みが仕掛けられていたということです。
したがって、おそらくブレグジットをやってみると、ブレグジットに伴って手続き上、過程において混乱が生ずるとどういうことが起きるかというと 、EU離脱などという愚かなことをするとこのようにして罰せられるんだぞと、見せしめになってしまうわけですね。
ペナルティーの重さが、離脱のペナルティの重さが見せつけられると、そうすると離脱を望む他の国民の民主的な意思も、多分くじけてしまうんですね。
こんなに大変ならば無理だ、となるわけです。
それでも英国は通貨統合してないんですが、通貨統合してない英国ですらこれだけ大変だということになると、通貨まで統合してしまった加盟国は、おそらくもっとペナルティの重さにおののいて、やる気を失ってしまうでしょう、ということです。
この議論を、大学で講演してるって事もあるんですけど、社会科学的な知見に基づいて論じ直してみましょう。
EUによる囲い込みの手口
W・ブライアン・アーサーという経済学者が提示した理論に、ロックインというのがあります。
ロックインは囲い込みという概念ですね。
ロックインっていう概念はどういうものかというと、一般に経済学の市場理論っていうのは、消費者が自由に製品やサービスを選べる。
選ぶとその選択の結果、一番良い製品やサービスが選択されるでしょう、だから、自由な市場競争っていうのはいいもんだ、という、こういうふうな大雑把にいうとこのような議論なんです。
ところが実際の世界では、消費者が特定の製品やサービスを使うことを無理強いされて、他のもっと良い製品やサービスを選びたくても選べないってことが現実の世界で起きているわけですね。
身近な例であげると、例えばスマートフォンを買ったとすると、そこには皆さん使う時にアプリをダウンロードしたり、写真や動画を保存したり、メールやSNSを利用したりしますと、仮にそのあと、もっと性能のいけてるスマートフォンの新しい機種が導入されても、もうそれに乗り換える手間とか費用が面倒くさいので、もういいから今のまま使おうということになるわけですよ。
これはロックインの概念を使うと、今まで使ってきた古いスマートフォンの岸にロックインされちゃった、だからもっといいものを選べなくなってるっていうことなんですね。
この例から分かりますように、新しい機種への乗り換えの費用、スイッチングコスト、乗り換え費用は高い、そのためにロックインという現象が起きるわけです。
やり手企業も行う囲い込みの手口
この高いスイッチングコストのせいで、消費者っていうのは、本当は自分が一番いいと思っている製品やサービスを選択することができない、要するに市場メカニズムってのは働かないということなんですね。
このロックイン効果を考えるときに、特に重要なのはこういうからくりがあるということです。
最初は、最初から強くロックインされないんですよね。
最初は強くロックインされていないんですけど、時間の計画とともにだんだんだんだんロックインが強くなってきて、やがって完全にロックされて、他の方向にいけなくなる。
この効果を、やり手の企業っていうのはこの効果を使うんですね、この戦略を。
つまり企業は、消費者を自社製品とか自社サービスにロックインするためにどうするかというと、最初は低価格、場合によって無償で製品やサービスを提供しますね、ディアゴスティーニなんかそうなんじゃないですか、初回二百何十円っていうあれですよ。
最初買うと、その後追加的にサービスを追加していって、長く使わせているうちにやがてその製品やサービスなしでは生きていけないという状態になると、こうやってロックインというのはやるわけですね。
西洋の例え話としてよく聞く話で、ラクダの鼻という話があるんですね。
ある旅人がラクダを連れて砂漠を旅していた、夜になってテントを張って寝ることにしたと、でもまあ夜の砂漠っていうのは寒いわけです、ラクダは旅人に、鼻先だけでいいからちょっとテントに入れさせてと頼むんですね、旅人は、鼻先だけならいいかなといって、こう、テントを開けて鼻先だけ入れてやると。
そうするとラクダは夜通し、だんだんだんだんこう、テントの中に頭ねじ込んでいって首ねじ込んでいって、旅人が朝起きてみると、まあご想像の通りで、テントがラクダに乗っ取られていると、これがラクダの鼻って話なんです。
このラクダっていうのはどうやったかというと、徐々にスイッチングコストを引き出して、じわじわとロックインを強めて完全にロックした。
このロックインの戦略を、ラクダが取ったっていうことなんですね
スマートフォンとかまあいろいろな例はあるんですけど、このロックインの効果が見られるというのは経済現象だけでありません。
EUが囲い込み完了した経緯
ブレグジットっていうのはまさにEUから離脱するためにはEU以外のもの、EU非加盟国という選択肢を選ぶためには極めて高いスイッチングコストを支払わなければならないってことを示しているわけです。
要するにEU加盟国は、EUにロックインされて、いくら離脱を望んでも、もうそれが事実上できないということになっています。
仮にEUに加盟してからすぐに離脱していれば、ここまでスイッチングコストは高くなっていなかった。
だからもっと早くやれば、もうちょっと良かったかもしれない。
あるいは、EUの前身の、EECやECとか、もうちょっと縛りが緩い連合体だった時は、離脱によるスイッチングコストは今のEUほど高くなかったわけです。
だけどEECがECになって、それがEUになって、通貨統合してなんとか統合してと、だんだんだんだんロックインが次第に強くなっていく。
EUの統合がこう次第に進化する、統合深化といわれるのは、結局ロックインを強めているんです。
そうするともうEUによって利益を得てしまう勢力っていうのが出てきているし、EUがなくては生きていけないという企業もどんどん増えていく。
そうするとEUから離脱のコストはものすごく高くなってくると。
で、ロックインが完成した。
要するにECというのはラクダの鼻戦略を取っていたということですね。
このロックインっていう現象はEUだけではないんです。
一般にグローバリゼーションの進化と呼ばれているものは、このロックインを強めるっていうことなんですね。
TPPの交渉参加にさえ反対した理由
2011年にTPP交渉の参加の是非が取り沙汰されたとき、私はTPPへの参加どころか交渉の参加もダメと言ってたわけです。
TPPの賛成派というのは、交渉だけでも参加して、ダメだったら抜ければいいじゃないか、とこう言ってたんですけど、私はいやそうじゃなくて、一旦交渉に参加したら抜けられなくなるからやめておきなさいと言ってたわけですね。
そうするとTPP賛成派は、抜けられないなんてことはありえないと、そんな話は嘘っぱちだといって、私をせせら笑ったんですけど、私はこの交渉参加というのはラクダの鼻だってわかってたのです。
いったん交渉に参加すると、今度は、日本は交渉に参加した瞬間に交渉からの離脱した時のコストを恐れて離脱できなくなると、各国から非難されるとかですね。
そうして徐々に妥協を強いられていって、玉ねぎの皮を一枚一枚剥いていくように少しずつ妥協を強いられていくっていうのは見えていたわけです。
私ならそういう意味じゃロックインの話は知ってたので、これはやばいからやめなさいといったわけです。
日本が既に手遅れで後の祭りな理由
でも今となってはもう手遅れですね。
今ではTPPからの離脱なんて全く考えることもできないし、アメリカが離脱したTPPに残ったまま、さらに上乗せでアメリカとのFTA交渉に参加せざるを得ないと、こういう事になっちゃっています。
アメリカとのFTAの交渉では、日本はTPPでもう見せちゃった妥協によっても足元を見られた状態で、交渉をして、妥協を強いられるということになります。
要するにTPPに入ってないで日米FTA交渉をやったときよりも、TPPに入ったままで日米FTA交渉をやる方が、より苦しくなるだろうということですね。
ですから最初からラクダがテントに鼻を突っ込むのを許すべきじゃなかったということです。
要するにTPPの交渉の参加すら拒否すべきだったということですね。
しかし、もはやあとの祭りで取り返しがつきません。
取り返しがつかないという言葉は強調しておきたいと思いますね。
取り返しがつかない、もう大変恐ろしい言葉ですね、非常にゾッとする言葉です、取り返しがつかない。
ちなみにアメリカはトランプ政権のもとでTPP交渉から離脱していますと。
米国トランプがTPP交渉から離脱出来た理由
なんで離脱できたかというと理由は簡単で、アメリカにとってTPP交渉から離脱する時のスイッチングコストというのは日本よりもはるかに低いんですね。
要するに日本は離脱をするとアメリカとかその他の国との関係が悪化するってことをえらく心配するんですけど、アメリカはそんなことを心配するわけがないということで、アメリカはスイッチングコストなんか気にしないで良い国だという事です。
アメリカが交渉から離脱できたんだから、日本だって交渉から離脱できないなんて嘘だ、なんて言ってる人たちは、スイッチングコストを計算する能力がないんでしょう、ということですね。
日本の絶滅と本格的な移民国家への道
このロックインの例というのは他にもありまして、例えば移民の受け入れなんていうのもそうですね。
すでに日本は本格的な移民国家への道へともうロックインされていると見ていいでしょう。
これももう取り返しはつかないですね、おそらく50年後もすれば、我々が今イメージしている日本のアイデンティティといわれるものはほぼ絶滅危惧種として保護を必要とするということになっていると思います。
これはもう賭けてもいいですよ。
すでにヨーロッパはそうなりつつありますので、まあそれを見てればわかるということです。
日本が米国に一切逆らえない理由
経済だけじゃなく、政治にもロックインというのがありまして、例えば日米同盟というのはこれはかなり強力なロックインだといえます。
日本が日米同盟によって安全保障されているというのは、これも間違いありません。
しかし同時に、それゆえに日本はアメリカに逆らうことができないで、通商交渉などで妥協を強いられるということになっていると。
もしそれが不愉快で、アメリカの要求を突っぱねて国益を守りたいんだったら、日米同盟への依存もやめなければなりません。
しかし、日米同盟なしで日本の安全保障は成り立たないという事実もまた、否定できないわけですね。
もし日本がこれまで何十年もかけて徐々に防衛力を強化していれば、今ほど日米同盟に依存しなくても安全保障できるようになっていたかもしれません。
少なくとも中国が軍事力を飛躍的に伸ばして、アメリカの方はイラク戦争の失敗などによって世界の警察官の地位が危うくなっていた2000年代、遅くとも2000年代に日本は今のような状況を見越して自主防衛できるように備えを強めておくべきだったと思いますが、日本はそれをやりませんでした。
むしろその逆に日米同盟を深化させてきた、要するに日米同盟へのロックインを強めてきたということですね。
その結果は、我々にはもう日米同盟以外の選択肢、例えば自主防衛という選択肢は事実上もうない、選ぶことができなくなりました。
日米同盟を歓迎していた中国のしたたかな戦略
ご参考までに、マイケル・マスタンドゥーノというアメリカの国際政治学者が指摘していましたが、2000年代の中国というのは実は日米同盟を歓迎しているふしがあったということです。
というのも、日米同盟にロックインされている限り、日本が軍事力を格段に強化するということはありえないと中国は分かっていたので、日米同盟というのは日本を封じ込める手段と中国は見てたということです
こうして日米同盟にロックインされてしまった日本は、もはや日米同盟以外の選択肢がないということになりました。
その結果、アメリカがいくら理不尽な要求を突き付けてきても、日本はそれを飲まざるを得ません。
それどころか近い将来、アメリカが東アジアの安全保障から手を引いたとしても、その可能性は決して低くはありませんけど、そのとき日本は自国を自力で守ることはできないというわけです。
日本はもう没落しかない理由
さて、ではどうしたらいいでしょうか、どうしようもありません。
日本はもう没落する以外にないということですね。
どうにかしたいんだったら、もっと早い段階から、ロックインが強くする前にロックを外しにかかるべきでした、遅くとも2000年代とかね。
でももう今となってはもはや取り返しがつきません、これキーワードですね、取り返しがつかないということです。
このロックインという理論が教えるのは、いったん没落のスパイラルにロックインをされてしまうと、もうもはや手の施しようがない、どうにもならないということです。
もちろん逆もありで、成長発展のスパイラルにうまくロックインされればどんどん成長すると、バカでも成長するということになるわけですね。
いずれにせよ、発展するにせよ没落するにせよ、いずれにしても世の中には、個人や社会の意思ではどうにもならないものがあるんです、それがロックインですね。
昔の人はそういう現象をやっぱり運命と呼んだわけですね。
現代人は運命など信じないかもしれませんが、今日ご説明したロックイン現象というのは、どうにも避けられない運命というものがあるということを示しているわけです。
昔の偉い人の言葉にもそういう国民の運命とか、あるいはロックイン、こういったものの存在を示すものがありますのでご紹介します。
偉人が語る世界の現実
例えばニッコロ・マキャヴェッリ、人間の事柄すべて流転してやまないものであると、釘づけにしておくわけにはいかないもので、それらは上り坂にあるか、または下り坂にあるかのどちらかしかありえない、我々は、多くのことがらを行うのに、理性に導かれてではなく、必要に迫られてやっているに過ぎないと。
理性で判断しても選びようがなくなっちゃってるということで、上り坂にあるか下り坂にあるかしかないということです。
あるいは19世紀、ドイツの政治経済学者フリードリッヒ・リスト、大国民は現状を維持することがない、それは発展しなければ衰微するものであると、こういう言葉を残しています。
他にも20世紀、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセット、国民というものは常に創造されているか、あるいは破壊されているかであると。
みんな偉い人は同じことを言うわけですね。
要するに国家というのはもう一旦没落の道を歩み出したらもはや逃れられないということですね。
かつてマーガレット・サッチャーも力強くこう言いました、この道しかない、There is no alternative、そう、オルタナティブっていうのはないんですね。
一国の没落、一国が没落にロックインされると、もうどうかしようと考えても無駄です。
いやむしろ逆で、考えれば考えるほどスイッチングコストの高さというのが分かりますと、そうするとますます抜けられないからますますロックインにはまり込んでしまうと、没落の道しかないんですから、オルタナティブなんて考えたって無駄です。
意味がない、仕方がないってことですね。
だから、ブルースリーはこういったわけです
考えるな、感じろと。
珍しくもない国の没落
歴史上ですね、没落の運命にロックインされてですね、どうにもならなかった国はいくらでもありますので心配には及びません。
全く珍しくもないと。
という事は、我々が生きる現代の世界というのもまぁ、歴史上ありふれたエピソードの一つ、没落という歴史上ありふれたエピソードの一つに過ぎない、まぁそういう程度事でしょうという事ですね。
ではまぁ、すっかり暗くなった所で、そういう没落の時代というのを我々はどう生きたらいいのか。
こういう時は、再び過去偉人の言葉を参照してみる。
苦難を乗り切るニコロ・マキャベリの言葉とイタリアの没落
まずはもう一度、ニコロ・マキャベリ
けれども、なにも諦めることはない。
なぜなら、運命が何を企んでいるかも分からないし、どこをどう通り抜けてきて、どこに顔を出すものか、皆目見当もつきかねる以上、いつどんな幸福がどんなところから飛び込んでくるかという希望を持ち続けて、どんな運命にみわわれても、またどんな苦境に追い込まれても、投げやりになってはならないのである。
彼の言葉には、わずかに希望が残っています。
私の講演をこの言葉で締めたいところなんですが、残念ながらマキャベリ自身は、イタリアの没落を食い止めるのに失敗していますと。
西洋の没落をあらわしたシュペングラーの言葉
そこで、もう一人の偉人の言葉を聞きましょう。
没落と言えば、やっぱり西洋の没落をあらわしたオズヴァルト・シュペングラー。
この人をおいて、他に無いでしょう。
今日の講義は、この言葉で締めたいと思います。
聞いてください、シュペングラー
われわれは、この時代に生まれたのであり、そしてわれわれに定めらえれているこの終局への道を勇敢に歩まなければならない。
これ以外に道はない。
希望がなくても、救いが無くても、絶望的な持ち場で頑張りとおすのが義務なのだ。
ポンペイの縄文の前で、その遺骸が発見された。
あのローマ兵士のように頑張り通すことこそが。
ー
彼が死んだのは、ヴェスビオ火山のときに、人々が彼の見張りを交代させてやるのを忘れていたためであった。
これが偉大さであり、これが血すじのよさというものである。
この誠実な最期は、人間から取り上げることのでき<ない>、ただひとつのものである。
以上で私の発表を終わります。
ごきげんようさようなら。